今年も終戦記念日を迎えた。
恒例の当ブログの戦争関連のエントリーを以下再掲する。
近頃いつも「言葉の空洞化」ということを考えさせられているのだが、最近の「無条件降伏は無条件降伏ではなかった」とか「東京裁判は裁判ではなかった」とか「A級戦犯は戦犯ではなかった」とか「サンフランシスコ講和条約受諾は受諾を意味しなかった」などという論を多く聞くにつけ、この「言葉の空洞化」という深刻なる病が、わたしたちの国で、いまや相当程度進行しているのではあるまいか、と憂慮している次第である。
わたしたち人間は、いったいぜんたい、忘れっぽい存在であるから、神がわたしたちを救うために受肉してくださったという「聖なる物語」すら、容易にして忘れてしまいがちである。だから、忘れてしまわぬために、毎日毎日、口で唱え、心に思い起こし、古びる記憶を新たにせねばならない。それこそが「祈り」が有する意義ほかならぬ。そうC.S.ルイスは論じている。
これはなにも、「聖なる物語」の記憶更新に限った話ではなく、「わが民族の物語」の記憶更新に関しても、言えることではあるまいか。
すなわち、六十数年前の民族滅亡の危機に際して、帝国の最高指導者たちは、どのように議論したのか。その議論が分かれ分かれて、国の意思決定が膠着状態に陥ったとき、先帝は、どのように大御心を示され、どのように御聖断を下されたのか。御聖断に従って、いかにわが民族は静々粛々とポツダム宣言の諸条項を履行し、そうして、講和条約締結にまで辿り着いたのか。そのすべてが、今日の日本をかたちづくっているわけである。
しかし、こういったことを、すっかり忘却し去ってしまうのでなければ、先ほど挙げた「無条件降伏は無条件降伏ではなかった」とか「東京裁判は裁判ではなかった」とか「A級戦犯は戦犯ではなかった」とか「講和条約受諾は受諾を意味しなかった」などという論は、どう考えたって、出て来っこあるまいに。そう小生は思うのである。
ゆえに、「聖なる物語」と同様、われわれは、「わが民族の物語」についても、常に努力して記憶を新たにせねばならないと思う。
その一助となるよう願って、以下に、「御前会議の議論と御聖断」「ポツダム宣言」「終戦の詔勅」を掲載してみたい。いまやほとんど文語体を解さない若い人のために、かなり手を入れて、現代口語文に訳してもみた。
ポツダム宣言受諾をめぐる御前会議の議論と御聖断
東郷茂徳外務大臣
「(ポツダム宣言第十条が求める)戦争犯罪人(の処罰)は、受諾困難なる問題だが、これは戦争を継続してまでも達成せねばならぬ絶対条件ではない。ただし、皇室は、絶対問題である。皇室は、将来の民族発展の基礎だからである。それゆえ、(ポツダム宣言に対する)要望は、この事(皇室)に集中する必要がある」
米内光政海軍大臣
「まったく同意見だ」
阿南惟幾陸軍大臣
「あくまで戦争を継続すべきだ。充分戦争をなし得る自信がある。米国に対しても、本土決戦に自信がある。海外諸国に展開中の軍隊は、無条件に停戦すべきではない。また、国民もあくまで戦うべきである。さもなければ、内乱が起きるに違いない」
梅津美治郎陸軍参謀総長
「本土決戦に対しては、準備は出来ている。ソ連の参戦はわが方に不利だが、無条件降伏をしなければならない状態ではない。いま無条件降伏をしたのでは、戦死者に申し訳が立たない」
平沼騏一郎枢密院議長
「首相にお聞きしたい。国内の治安維持は大切であるが、今後取ろうとする処置は、どうであるか? 食料の面は、どうされるつもりか? ずいぶんひどくなりつつある。今日の事態は、だんだん憂慮すべき事態に向いつつある。戦争を止めることよりも、続けることは、かえって、国内の治安を乱すことも、考え得るのではないか」
鈴木貫太郎内閣総理大臣
「まったく同感だ。心配している」
平沼騏一郎枢密院議長
「今日このような状態で、本当によいのかどうか、充分検討せねばならない。単純に武力だけで、この問題を決することは出来ない。また、国民を考慮に入れずに戦うことは、できない。以上について充分自信があるなら、強く突っ張ればよい。しかし自信がないなら、陸海の兵力がいかに強くとも、戦争継続は出来ない。ただし、天皇を元首とする国家の護持と、皇室の御安泰については、国民全部が戦死しても、これを守らなければならない。聖断によって決するほかないと考える」
豊田副武海軍軍令部総長
「必ず勝算があるとは言いかねるけれども、敵に相当打撃を与える自信はある。国内においても、なお戦意に燃える国民もいる。戦意が高い者が、まだ相当数いる」
鈴木貫太郎内閣総理大臣
「長時間にわたり審議されたが、ここに意見の一致を見ることが出来なかったのは、はなはだ遺憾である。この事たるや、誠に重大な事柄にして、誠に枢密院議長が言われる通り、重大問題である。意見の対立がある以上、陛下の思し召しをうかがい、それに基づいて、会議の決定を得たいと思う」
昭和天皇
「それならば、私の意見を言おう。
(ポツダム宣言受諾に対する)反対側の意見は、それぞれよく聞いたが、私の考えは、この前に申したことに変わりはない。私は、世界の現状と、国内の事情とを充分検討した結果、これ以上戦争を継続することは無理だと考える。
天皇を元首とする国家を護持し得るかどうかという問題について、いろいろの疑義があるということであるが、私は、この(ポツダム宣言に関する連合国側の)回答文の文意を通じて、先方は相当好意を持っているものと解釈する。先方(連合国)の態度に一抹の不安があるというのも、一応はもっともだが、私はそう疑いたくない。要は、わが国民全体の信念と覚悟の問題であると思うから、この際、先方の申し入れを受諾してもよろしいと考える。どうか皆もそう考えてもらいたい。
さらに、陸海軍の将兵にとって、武装の解除なり、保障占領というようなことは、まことに堪え難いことで、それらの心持ちは私にはよくわかる。しかし、自分はいかになろうとも、万民の生命を助けたい。
このうえ戦争を続けては、結局わが国がまったく焦土となり、万民にこれ以上の苦悩を嘗めさせることは、私としては実に忍び難い。天皇家の代々の祖先の御霊に、ご返事のしようもない。和平の手段によるとしても、もとより先方(連合国)のやり方に全般の信頼を置き難いことは当然であるが、日本がまったくなくなるという結果に比べて、少しでも種子が残りさえすれば、さらにまた、復興という光明も考えられる。
私は、明治大帝が涙をのんで断念された、(ロシア・フランス・ドイツによる)三国干渉の当時の御苦衷をしのび、この際、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、一致協力して、将来の回復に立ち直りたいと思う。
今日まで戦場にあって陣没し、あるいは殉戦して命を失った者、また、その遺族を思うとき、悲嘆に堪えない次第である。また、戦傷を負い、戦災を被り、家業を失った者の生活に至っては、私の深く心配するところである。この際、私としてなすべきことがあれば、何でもいとわない。国民に呼びかけることがよければ、私はいつでもマイクの前にも立つ。
一般国民には今まで何も知らせずにおったのであるから、突然この決定を聞く場合、はなはだしく動揺するであろう。陸海軍将兵には、さらに動揺も大きいであろう。この気持ちをなだめることは、相当困難なことであろうが、どうか私の心持ちをよく理解して、陸海軍大臣は共に努力し、よく治まるようにしてもらいたい。必要があれば、自分が親しく説き諭してもかまわない。この際、詔書を出す必要もあろうから、政府は早速その起案をしてもらいたい。
以上は私の考えである」
ポツダム宣言
1.わたしたち米国大統領、中国政府主席、英国総理大臣は、数億の国民を代表して協議した結果、日本国に対して、このたびの戦争を終結する機会を与えることに、意見の一致を見た。
2.米国、英国、中国の巨大な陸海空軍は、西方からの自国の陸空軍による数倍の増強を受けて、いまや、日本国に対する最終的な打撃を加える体制を整えた。この軍事力は、日本国が抵抗を止めるまで、日本国に対する戦争を遂行している連合国すべての決意によって支持され、鼓舞されるものである。
3.決起した世界の自由な民の力に対して、ドイツが行ったあの無益で無意義な抵抗がもたらした結果は、日本国の国民に対して、先例を極めて明白なかたちで示している。現在、日本国に対して集結しつつある軍事力は、ナチスの抵抗に対して加えられて、ドイツ人民の土地と産業と生活様式を決定的な荒廃に帰せしめた軍事力と比べてみて、測り知れないほど強大となっている。わたしたちの決意によって支持されている軍事力が、その最高度において使用された場合には、日本国の軍隊は不可避的に完全な壊滅を被ることになるし、同様に、日本国の本土は完全に破壊されることになる。
4.無分別な打算でもって、日本帝国を滅亡の淵に陥れた、わがままな軍国主義的助言者によって、引き続き日本国が統治されて行くべきなのか、あるいは、理性的な道筋に沿って日本国が進んで行くべきなのかを、いま日本国自身が決定しなければならない時期が、来ている。
5.わたしたちが示す条件は、以下の通りである。わたしたちは、以下に示す条件から離脱することは、あり得ない。以下に代わる条件は存在しないし、また、条件の適用の遅延を認めることも、あり得ない。
6.わたしたちは、無責任な軍国主義が、世界から完全に排除されるまでは、平和と安全と正義の新秩序は決して生まれ得ないと主張する。それゆえ、日本国の国民を欺瞞し、世界征服の挙に出る過誤を日本国に犯させた者たちの権力と勢力は、永久に除去されなければならない。
7.このような新秩序が建設され、かつ、日本国の戦争遂行能力が破砕されたとの証拠が得られるまでは、連合国が指定する日本国内の諸地点は、わたしたちがこの宣言で指示する基本目的を確実に達成するために、占領状態に置かれなければならない。
8.「カイロ宣言」の諸条項は履行されなければならない。また、日本国の主権は、本州、北海道、九州、四国、および、わたしたちが決定する諸小島に局限されなければならない。
9.日本国の軍隊は、完全に武装を解除された後、各自の家庭に復帰し、平和的で生産的な生活を営む機会を与えられなければならない。
10.わたしたちは、日本人を民族として奴隷化し、あるいは、日本国民を滅亡させようという意図を持つ者ではないけれども、連合国の捕虜を虐待した者たちを含む、すべての戦争犯罪人に対しては、必ず厳重な処罰を加えなければならない。日本国政府は、国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去しなければならない。言論、宗教、思想の自由、ならびに、基本的人権の尊重を、確立しなければならない。
11.日本国は、その経済活動を保持し、また、公正な実物賠償の取り立てを可能とさせるような産業を維持することを、許可される。しかし、再軍備を可能とするような産業は、許可されないことがある。上記の目的のために、日本国は、原材料を輸入することを、許可される。日本国は将来、国際的な通商取引への参加を、許可される。
12.以上の目的が達成され、日本国の国民が、自由に表明される意志に従って、平和的傾向を有し、責任ある政府が樹立されるようになった時点で、連合国の占領軍は、ただちに日本国より撤収しなければならない。
13.わたしたちは、日本国政府が、全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、かつ、降伏を実行するに際して、日本国政府の誠意に見合う充分な保障が提供されることを、日本国政府に対して要求する。これ以外の日本国の選択は、迅速かつ完全な壊滅をもたらすのみである。
ポツダム宣言受諾の詔書(終戦の詔勅)
「私は、世界の大勢と、帝国の現状とを合わせて考えた上で、非常的な措置をもって、この時局を収拾しようと願い、いまここに、忠良な臣民であるあなたがたに告げるものである。
私は、帝国政府に命じて、米国・英国・中国・ロシアに対し、ポツダム宣言を受諾する旨を、通告させた。
そもそも、帝国の臣民が安らかで穏やかに過ごすこと、また、世界の諸国と共に繁栄を分かち合い楽しむことは、天皇家の祖先から代々伝えられている手本であって、私はその手本を、両手でうやうやしくささげもつようにして、常々怠らず心に刻み付けてきたことである。先に英国と米国の二国に対して宣戦布告した理由も、帝国の自主生存と、東アジアの安定とを望み願ってのことであって、他国の主権を排除したり、領土を侵略したりすることは、もとより私の心に抱く目的ではない。そうであるのに、戦争はすでに四年の歳月を経て、陸海軍の将兵の勇猛な戦い、政治家と官僚の奮闘と努力、一億の国民の身をささげての働きは、いずれも最善を尽くしたものであったにもかかわらず、戦局は必ずしも好転せず、世界の大勢は、わが国には有利にならず、そればかりか、敵は新たに残虐な原子爆弾を使用して、罪もない人々を大量に殺戮し、それがもたらす惨害の規模は、まことに測り知れないものとなるに至った。この上なお戦争を継続するならば、わが民族の滅亡を招くばかりでなく、ひいては人類の文明をも破滅させてしまうであろう。そうなれば私は、何十億もの人民の生存を保障することが出来ないことになり、天皇家の代々の先祖の御霊に対して、お詫びする言葉もなくなってしまう。まさにこのような理由のゆえに、私は帝国政府に命じて、ポツダム宣言の受諾に応じさせるに至ったのである。
私は、東アジアの解放のために、帝国に終始協力して来た同盟諸国に対して、遺憾の意を表明せざるを得ない。帝国の臣民で、戦陣に死に、職域に殉じ、命を落とした者、また、その遺族を思うとき、私は五臓六腑が引き裂かれるような痛みを覚える。かつ、戦場で負傷し、空襲に遭い、家財や仕事を失った者の今後の生活の道については、私が深く心配しているところである。思いみるに、これから帝国が受けようとしている苦難は、世の常識を絶するものとなろう。臣民であるあなたがたの悲しみは、私もよく知っていることではあるけれども、時のめぐりが今ここに至っては、私は、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、世界の恒久的な平和へと、扉を開きたいと願うものである。
私は、今ここに、天皇を元首とする国家を護持することが出来て、忠良な臣民であるあなたがたの偽りのない忠誠心に信頼し、臣民であるあなたがたと常に共にいるけれども、激しい感情につき動かされるままに、むやみに問題を引き起こし、同胞同士が互いに押しのけ合い、時局を混乱させ、それによって国の進むべき方向を誤り、国際的な信義を失うような事態は、私が厳しく禁ずることである。どうか、国を挙げ、ひとつの家族となって、子孫を後世に残し、神の国である日本の不滅をどこまでも信じ、おのおのに課せられた重い任務と、これから待っている遠い道のりとを思って、将来の建設に全力を傾け、道徳心を重んじ、心に抱いている目的を堅く守り抜き、天皇を元首とする国家こそ最もすぐれて美しいことが明らかとなるまで、国を発展させて、進歩し続ける世界に遅れをとらないよう、約束し、誓いなさい。臣民であるあなたがたは、私の心を実現するために、努力するように」
(2006年8月9日初出)
関連ログ
「戦後60年に思う」
「私的憲法草案12か条」
「教育基本法改正案への修正条項私的草案」
「国家とは何か?」
「与党の生活保護縮小案を嗤う」
「言霊の幸ふ国」
「つでにミクシィにて昭和史を弁証する」
「いわゆる『富田メモ』に感ずること」
「こりずに・ミクシィにて昭和史を弁証する」
「これで最後に・ミクシィにて昭和史を弁証する」
「太平洋戦争と四人のキリスト者」
「美しい国へ」
「国旗国歌が子どもを作り得るか?」
「田鋤清人さんのこと」
「教育基本法改正案への修正条項私的草案」
恒例の当ブログの戦争関連のエントリーを以下再掲する。
近頃いつも「言葉の空洞化」ということを考えさせられているのだが、最近の「無条件降伏は無条件降伏ではなかった」とか「東京裁判は裁判ではなかった」とか「A級戦犯は戦犯ではなかった」とか「サンフランシスコ講和条約受諾は受諾を意味しなかった」などという論を多く聞くにつけ、この「言葉の空洞化」という深刻なる病が、わたしたちの国で、いまや相当程度進行しているのではあるまいか、と憂慮している次第である。
わたしたち人間は、いったいぜんたい、忘れっぽい存在であるから、神がわたしたちを救うために受肉してくださったという「聖なる物語」すら、容易にして忘れてしまいがちである。だから、忘れてしまわぬために、毎日毎日、口で唱え、心に思い起こし、古びる記憶を新たにせねばならない。それこそが「祈り」が有する意義ほかならぬ。そうC.S.ルイスは論じている。
これはなにも、「聖なる物語」の記憶更新に限った話ではなく、「わが民族の物語」の記憶更新に関しても、言えることではあるまいか。
すなわち、六十数年前の民族滅亡の危機に際して、帝国の最高指導者たちは、どのように議論したのか。その議論が分かれ分かれて、国の意思決定が膠着状態に陥ったとき、先帝は、どのように大御心を示され、どのように御聖断を下されたのか。御聖断に従って、いかにわが民族は静々粛々とポツダム宣言の諸条項を履行し、そうして、講和条約締結にまで辿り着いたのか。そのすべてが、今日の日本をかたちづくっているわけである。
しかし、こういったことを、すっかり忘却し去ってしまうのでなければ、先ほど挙げた「無条件降伏は無条件降伏ではなかった」とか「東京裁判は裁判ではなかった」とか「A級戦犯は戦犯ではなかった」とか「講和条約受諾は受諾を意味しなかった」などという論は、どう考えたって、出て来っこあるまいに。そう小生は思うのである。
ゆえに、「聖なる物語」と同様、われわれは、「わが民族の物語」についても、常に努力して記憶を新たにせねばならないと思う。
その一助となるよう願って、以下に、「御前会議の議論と御聖断」「ポツダム宣言」「終戦の詔勅」を掲載してみたい。いまやほとんど文語体を解さない若い人のために、かなり手を入れて、現代口語文に訳してもみた。
ポツダム宣言受諾をめぐる御前会議の議論と御聖断
東郷茂徳外務大臣
「(ポツダム宣言第十条が求める)戦争犯罪人(の処罰)は、受諾困難なる問題だが、これは戦争を継続してまでも達成せねばならぬ絶対条件ではない。ただし、皇室は、絶対問題である。皇室は、将来の民族発展の基礎だからである。それゆえ、(ポツダム宣言に対する)要望は、この事(皇室)に集中する必要がある」
米内光政海軍大臣
「まったく同意見だ」
阿南惟幾陸軍大臣
「あくまで戦争を継続すべきだ。充分戦争をなし得る自信がある。米国に対しても、本土決戦に自信がある。海外諸国に展開中の軍隊は、無条件に停戦すべきではない。また、国民もあくまで戦うべきである。さもなければ、内乱が起きるに違いない」
梅津美治郎陸軍参謀総長
「本土決戦に対しては、準備は出来ている。ソ連の参戦はわが方に不利だが、無条件降伏をしなければならない状態ではない。いま無条件降伏をしたのでは、戦死者に申し訳が立たない」
平沼騏一郎枢密院議長
「首相にお聞きしたい。国内の治安維持は大切であるが、今後取ろうとする処置は、どうであるか? 食料の面は、どうされるつもりか? ずいぶんひどくなりつつある。今日の事態は、だんだん憂慮すべき事態に向いつつある。戦争を止めることよりも、続けることは、かえって、国内の治安を乱すことも、考え得るのではないか」
鈴木貫太郎内閣総理大臣
「まったく同感だ。心配している」
平沼騏一郎枢密院議長
「今日このような状態で、本当によいのかどうか、充分検討せねばならない。単純に武力だけで、この問題を決することは出来ない。また、国民を考慮に入れずに戦うことは、できない。以上について充分自信があるなら、強く突っ張ればよい。しかし自信がないなら、陸海の兵力がいかに強くとも、戦争継続は出来ない。ただし、天皇を元首とする国家の護持と、皇室の御安泰については、国民全部が戦死しても、これを守らなければならない。聖断によって決するほかないと考える」
豊田副武海軍軍令部総長
「必ず勝算があるとは言いかねるけれども、敵に相当打撃を与える自信はある。国内においても、なお戦意に燃える国民もいる。戦意が高い者が、まだ相当数いる」
鈴木貫太郎内閣総理大臣
「長時間にわたり審議されたが、ここに意見の一致を見ることが出来なかったのは、はなはだ遺憾である。この事たるや、誠に重大な事柄にして、誠に枢密院議長が言われる通り、重大問題である。意見の対立がある以上、陛下の思し召しをうかがい、それに基づいて、会議の決定を得たいと思う」
昭和天皇
「それならば、私の意見を言おう。
(ポツダム宣言受諾に対する)反対側の意見は、それぞれよく聞いたが、私の考えは、この前に申したことに変わりはない。私は、世界の現状と、国内の事情とを充分検討した結果、これ以上戦争を継続することは無理だと考える。
天皇を元首とする国家を護持し得るかどうかという問題について、いろいろの疑義があるということであるが、私は、この(ポツダム宣言に関する連合国側の)回答文の文意を通じて、先方は相当好意を持っているものと解釈する。先方(連合国)の態度に一抹の不安があるというのも、一応はもっともだが、私はそう疑いたくない。要は、わが国民全体の信念と覚悟の問題であると思うから、この際、先方の申し入れを受諾してもよろしいと考える。どうか皆もそう考えてもらいたい。
さらに、陸海軍の将兵にとって、武装の解除なり、保障占領というようなことは、まことに堪え難いことで、それらの心持ちは私にはよくわかる。しかし、自分はいかになろうとも、万民の生命を助けたい。
このうえ戦争を続けては、結局わが国がまったく焦土となり、万民にこれ以上の苦悩を嘗めさせることは、私としては実に忍び難い。天皇家の代々の祖先の御霊に、ご返事のしようもない。和平の手段によるとしても、もとより先方(連合国)のやり方に全般の信頼を置き難いことは当然であるが、日本がまったくなくなるという結果に比べて、少しでも種子が残りさえすれば、さらにまた、復興という光明も考えられる。
私は、明治大帝が涙をのんで断念された、(ロシア・フランス・ドイツによる)三国干渉の当時の御苦衷をしのび、この際、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、一致協力して、将来の回復に立ち直りたいと思う。
今日まで戦場にあって陣没し、あるいは殉戦して命を失った者、また、その遺族を思うとき、悲嘆に堪えない次第である。また、戦傷を負い、戦災を被り、家業を失った者の生活に至っては、私の深く心配するところである。この際、私としてなすべきことがあれば、何でもいとわない。国民に呼びかけることがよければ、私はいつでもマイクの前にも立つ。
一般国民には今まで何も知らせずにおったのであるから、突然この決定を聞く場合、はなはだしく動揺するであろう。陸海軍将兵には、さらに動揺も大きいであろう。この気持ちをなだめることは、相当困難なことであろうが、どうか私の心持ちをよく理解して、陸海軍大臣は共に努力し、よく治まるようにしてもらいたい。必要があれば、自分が親しく説き諭してもかまわない。この際、詔書を出す必要もあろうから、政府は早速その起案をしてもらいたい。
以上は私の考えである」
ポツダム宣言
1.わたしたち米国大統領、中国政府主席、英国総理大臣は、数億の国民を代表して協議した結果、日本国に対して、このたびの戦争を終結する機会を与えることに、意見の一致を見た。
2.米国、英国、中国の巨大な陸海空軍は、西方からの自国の陸空軍による数倍の増強を受けて、いまや、日本国に対する最終的な打撃を加える体制を整えた。この軍事力は、日本国が抵抗を止めるまで、日本国に対する戦争を遂行している連合国すべての決意によって支持され、鼓舞されるものである。
3.決起した世界の自由な民の力に対して、ドイツが行ったあの無益で無意義な抵抗がもたらした結果は、日本国の国民に対して、先例を極めて明白なかたちで示している。現在、日本国に対して集結しつつある軍事力は、ナチスの抵抗に対して加えられて、ドイツ人民の土地と産業と生活様式を決定的な荒廃に帰せしめた軍事力と比べてみて、測り知れないほど強大となっている。わたしたちの決意によって支持されている軍事力が、その最高度において使用された場合には、日本国の軍隊は不可避的に完全な壊滅を被ることになるし、同様に、日本国の本土は完全に破壊されることになる。
4.無分別な打算でもって、日本帝国を滅亡の淵に陥れた、わがままな軍国主義的助言者によって、引き続き日本国が統治されて行くべきなのか、あるいは、理性的な道筋に沿って日本国が進んで行くべきなのかを、いま日本国自身が決定しなければならない時期が、来ている。
5.わたしたちが示す条件は、以下の通りである。わたしたちは、以下に示す条件から離脱することは、あり得ない。以下に代わる条件は存在しないし、また、条件の適用の遅延を認めることも、あり得ない。
6.わたしたちは、無責任な軍国主義が、世界から完全に排除されるまでは、平和と安全と正義の新秩序は決して生まれ得ないと主張する。それゆえ、日本国の国民を欺瞞し、世界征服の挙に出る過誤を日本国に犯させた者たちの権力と勢力は、永久に除去されなければならない。
7.このような新秩序が建設され、かつ、日本国の戦争遂行能力が破砕されたとの証拠が得られるまでは、連合国が指定する日本国内の諸地点は、わたしたちがこの宣言で指示する基本目的を確実に達成するために、占領状態に置かれなければならない。
8.「カイロ宣言」の諸条項は履行されなければならない。また、日本国の主権は、本州、北海道、九州、四国、および、わたしたちが決定する諸小島に局限されなければならない。
9.日本国の軍隊は、完全に武装を解除された後、各自の家庭に復帰し、平和的で生産的な生活を営む機会を与えられなければならない。
10.わたしたちは、日本人を民族として奴隷化し、あるいは、日本国民を滅亡させようという意図を持つ者ではないけれども、連合国の捕虜を虐待した者たちを含む、すべての戦争犯罪人に対しては、必ず厳重な処罰を加えなければならない。日本国政府は、国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去しなければならない。言論、宗教、思想の自由、ならびに、基本的人権の尊重を、確立しなければならない。
11.日本国は、その経済活動を保持し、また、公正な実物賠償の取り立てを可能とさせるような産業を維持することを、許可される。しかし、再軍備を可能とするような産業は、許可されないことがある。上記の目的のために、日本国は、原材料を輸入することを、許可される。日本国は将来、国際的な通商取引への参加を、許可される。
12.以上の目的が達成され、日本国の国民が、自由に表明される意志に従って、平和的傾向を有し、責任ある政府が樹立されるようになった時点で、連合国の占領軍は、ただちに日本国より撤収しなければならない。
13.わたしたちは、日本国政府が、全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、かつ、降伏を実行するに際して、日本国政府の誠意に見合う充分な保障が提供されることを、日本国政府に対して要求する。これ以外の日本国の選択は、迅速かつ完全な壊滅をもたらすのみである。
ポツダム宣言受諾の詔書(終戦の詔勅)
「私は、世界の大勢と、帝国の現状とを合わせて考えた上で、非常的な措置をもって、この時局を収拾しようと願い、いまここに、忠良な臣民であるあなたがたに告げるものである。
私は、帝国政府に命じて、米国・英国・中国・ロシアに対し、ポツダム宣言を受諾する旨を、通告させた。
そもそも、帝国の臣民が安らかで穏やかに過ごすこと、また、世界の諸国と共に繁栄を分かち合い楽しむことは、天皇家の祖先から代々伝えられている手本であって、私はその手本を、両手でうやうやしくささげもつようにして、常々怠らず心に刻み付けてきたことである。先に英国と米国の二国に対して宣戦布告した理由も、帝国の自主生存と、東アジアの安定とを望み願ってのことであって、他国の主権を排除したり、領土を侵略したりすることは、もとより私の心に抱く目的ではない。そうであるのに、戦争はすでに四年の歳月を経て、陸海軍の将兵の勇猛な戦い、政治家と官僚の奮闘と努力、一億の国民の身をささげての働きは、いずれも最善を尽くしたものであったにもかかわらず、戦局は必ずしも好転せず、世界の大勢は、わが国には有利にならず、そればかりか、敵は新たに残虐な原子爆弾を使用して、罪もない人々を大量に殺戮し、それがもたらす惨害の規模は、まことに測り知れないものとなるに至った。この上なお戦争を継続するならば、わが民族の滅亡を招くばかりでなく、ひいては人類の文明をも破滅させてしまうであろう。そうなれば私は、何十億もの人民の生存を保障することが出来ないことになり、天皇家の代々の先祖の御霊に対して、お詫びする言葉もなくなってしまう。まさにこのような理由のゆえに、私は帝国政府に命じて、ポツダム宣言の受諾に応じさせるに至ったのである。
私は、東アジアの解放のために、帝国に終始協力して来た同盟諸国に対して、遺憾の意を表明せざるを得ない。帝国の臣民で、戦陣に死に、職域に殉じ、命を落とした者、また、その遺族を思うとき、私は五臓六腑が引き裂かれるような痛みを覚える。かつ、戦場で負傷し、空襲に遭い、家財や仕事を失った者の今後の生活の道については、私が深く心配しているところである。思いみるに、これから帝国が受けようとしている苦難は、世の常識を絶するものとなろう。臣民であるあなたがたの悲しみは、私もよく知っていることではあるけれども、時のめぐりが今ここに至っては、私は、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、世界の恒久的な平和へと、扉を開きたいと願うものである。
私は、今ここに、天皇を元首とする国家を護持することが出来て、忠良な臣民であるあなたがたの偽りのない忠誠心に信頼し、臣民であるあなたがたと常に共にいるけれども、激しい感情につき動かされるままに、むやみに問題を引き起こし、同胞同士が互いに押しのけ合い、時局を混乱させ、それによって国の進むべき方向を誤り、国際的な信義を失うような事態は、私が厳しく禁ずることである。どうか、国を挙げ、ひとつの家族となって、子孫を後世に残し、神の国である日本の不滅をどこまでも信じ、おのおのに課せられた重い任務と、これから待っている遠い道のりとを思って、将来の建設に全力を傾け、道徳心を重んじ、心に抱いている目的を堅く守り抜き、天皇を元首とする国家こそ最もすぐれて美しいことが明らかとなるまで、国を発展させて、進歩し続ける世界に遅れをとらないよう、約束し、誓いなさい。臣民であるあなたがたは、私の心を実現するために、努力するように」
(2006年8月9日初出)
関連ログ
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