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祈りの聖書神学的基盤

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わたしたちは祈っていますが、どうしてわたしたちは祈ることができるんだろう。わたしのような者が、祈ってもいいんだろうか。わたしのような者が祈って、それがほんとうに神に通じるんだろうか。この時間は、こういうことについて、考えてみたいとおもいます。道筋としては、まず「わたしたちは祈ることができない」ということ。その次に「イエスが祈っておられる」ということ。最後に「だからわたしたちは祈れる」ということ。この順番で道筋をつけて、考えてみましょう。

まず「わたしたちは祈ることができない」ということです。

それは、朝が弱いから、とか、忙しいから、とか、めんどくさがりやだから、だから祈ることができない、というのではありません。そもそも、わたしたちは哲学的にも存在論的にも、祈ることができないんだ、ということです。

どうしてかと言いますと、神様は存在論的には「絶対他者」と呼ばれるお方でありまして、神はわたしたちとは絶対的に違うお方である、ということ。絶対とは対立するものを絶つ、ということですけれども、神様はあらゆるものから超越し隔絶していて、比較対象するということが一切できない。だから、神様とわたしたちの間には、そもそも接点が無い、ということなんです。

いや、接点はあるだろう。接点がなかったら神と人が交わることなんてできないじゃないか。そういう議論があります。神と人とが接することのできる接点。これを神学的には「結合点」と言いますけれども、はたして、ほんとうに神と人との間に結合点というものがあるんだろうか。20世紀に大神学者のカール・バルトとその友人のこれまた大神学者のエミール・ブルンナーというひとが、この結合点の存否をめぐって、大激論をいたしました。これが有名な「イマゴデイ論争」と呼ばれるものですけれども、結論から言いますと、これはカール・バルトが勝ちまして、神と人との間には本来、結合点が無いんだ、ということになりました。するとつまり、わたしたちは神様に祈ることができない。祈っても通じないんだ、ということになります。では、わたしたちには、何ができるのか? 神様の御心に対してひたすら服従するという。これだけがわたしたちの出来ることになります。ですから、「御心が天でなるように、地でもなりますように」という、この祈りだけは、わたしたちは出来ることになる。御心への服従です。

それでは次に「イエスが祈っておられる」ということを考えてみましょう。

いまやわたしたちの主イエスキリストがおいでくださいました。イエスは、母マリアの本質から血と肉とをおとりになって、ほんとうに人間であって、同時に、ほんとうの神であるという、そういうお方となられました。これを神学的には神人二性一人格と言います。イエスというひとつの人格の中に、神としての性質と、ひととしての性質が完全に結合していて、もう分離することが不可能なまでにひとつになっている、という。このことを救世軍教理第4条が言っておりまして、すなわち、「われらは、イエス・キリストの人格の中に神性と人性とが結合していて、彼は正しく真に神にして、また正しく真に人たることを信ず」とあるのが、それです。

イエスご自身こうおっしゃっています。「わたしを見た者は、父を見たのだ」(ヨハネ13:9)「わたしが父の内におり、父がわたしの内におられる」(13:10) これは、オントロジカル・トリニティー、内在的三位一体をあらわしたお言葉だ、と神学的に言われている箇所ですけれども、じつに、イエスという人格において神と人とがひとつに結合しているのであります。

すると、どういうことになるんだろうか。先ほどわたしたちは、神と人とはあまりに違い過ぎて、その間にいかなる接点も無い、ということを考えました。神と人との間に結合点が無いから、祈れない、ということであります。ところが、主イエスキリストがいまやおいでになった。このイエスキリストの人格のうちに、神と人とが結合しているのであります。しかも、絶対に分離できないほどに固くひとつに結合しているのであります。

すると、どうなるのか。実にこのイエスキリストこそが、結合点だ、ということになります。神と人がひとつに結合した存在。イエスこそが生きた結合点であります。だから、イエスは祈ることができる。人として人の思いを神にたずさえて行く、祈る、ということを、イエスはすることができるのです。

イエスは、ご自身ひとりで山にのぼり、また、部屋の戸をとじて、父なる神に祈っておられました。そればかりではありません。イエスは、わたしたちに向かって、「さあ、おまえたちも祈れ!」と、祈りへとわたしたちを招いておられるのです。ヨハネの福音書16:23「はっきり言っておく。あなたがたがわたしの名によって何かを父に願うならば、父はお与えになる」

イエスの名によって祈れ!そうすれば与えられる!とイエスはわたしたちを招いていたもう。祈りへと、わたしたちを招いていたもうのです。

そこで第三の点。「わたしたちは祈れる」ということについて考えてみましょう。

わたしたちは、イエスの中で、イエスを通して、イエスによって、わたしたちは祈ることができるのです。なぜならば、わたしたちはみな、イエスに結ばれているからです。このことについて、カルケドン信条という、世界の主要な教会が告白している信仰箇条にこういうふうに説明されています。イエスはまことに神であって、神として、父なる神と同一本質である。そして、イエスはまことに人であって、人として、すべての人と同一本質である。

救世軍の教理で言えば、イエスの人格の中に神性と人性が結合していて、ということですけれども、このイエスの人としての性質は、過去現在未来のあらゆる時代のすべての人間と同一本質であって、そのことにおいて、イエスはすべての人と結合しているのだ、ということです。

そうすると、イエスの影響というのは、すぐに全人類に及ぶ、ということになるのです。それはちょうど、最初の人間アダムの影響が、全人類に及んだのと似ています。アダムは人間として、過去現在未来のあらゆる時代のすべての人間と同一本質でありました。だからこそ、アダムが罪に落ちたときに、アダムに結ばれたすべての人類が、同様にして罪に落ちたのです。

これに対して、いまや主イエスキリストが第二のアダムとしておいでになりました。イエスこそ、神と人とがひとつに結合したお方です。そうして、イエスの人性、人間としてのイエスの性質は、過去現在未来のあらゆる時代のすべての人間と同一本質であります。イエスはすべての人とつながっている。ひとつなんです。だから、イエスが祈ることができるなら、イエスに結ばれているすべての人間が祈ることができるようになる。イエスが死んだのなら、イエスに結ばれているすべての人間が古い自分に死ぬようになる。イエスが復活したのなら、イエスにむすばれたすべての人間が復活の命に与るようになる、ということです。

このイエスと全人類との神秘的な結合。これを神学用語でウニオミスティカと言いますけれども、これを言い換えるなら、わたしたちはイエスの中におり、イエスはわたしたちの中におり、わたしたちとイエスとはひとつである、なぜなら、結合されているのだから、ということになります。このことについて主イエスはヨハネの福音書17:20以下でこうおっしゃっておられます。「父よ、あなたがわたしの内におられ、わたしがあなたの内にいるように、すべての人を一つにしてください。彼らもわたしたちの内にいるようにしてください」「わたしたちが一つであるように、彼らも一つになるためです」「わたしが彼らの内におり、あなたがわたしの内におられるのは、彼らが完全に一つになるためです」

わたしたちとイエスとの、この密接な結合。これは、わたしたち全人類に与えられた無償の贈り物です。恵みの賜物です。わたしたちが逆立ちしたって、ひっくりかえったって、月にロケットを飛ばしたって、わたしたちが自力で手に入れられるもんじゃありません。しかし、神が人となってベツレヘムの馬小屋の飼葉桶に赤ちゃんイエス様となってお生まれになった。この奇跡によって、わたしたちとイエスとの、この密接な結合が与えられたのです。

しかし、神はこれをわたしたちに強制はなさいません。神は、わたしたちの個人としての意志を尊重されます。ですから、わたしたちは、この結合がイエスを通してすでに与えられているにしても、自分で「それをください」と求めなければなりません。ここに信仰が求められております。これについて、ジョージ・ブラッドフォード・ケアードという聖書神学者の言葉を引用して、この考察の結びの言葉としたいと思います。

「人が、この新しい人類に加わりたいと願うなら、ただ一つ条件がある。信仰である。この信仰とは、キリストと自分とが同一化されたという事実を、心の底から受け入れることである。人は、生まれながらにして、アダムに属する者である。しかし、キリストに属する者となるには、本人の同意がいる」

わたしたちは、すべての祈りの末尾を「主イエスキリストの御名によって祈ります、アーメン!」で結びます。これはまさに、本人が同意している「しるし」なのです。わたしは、イエスと自分とが同一化されたという事実を心の底から受け入れます。ゆえに、わたしは祈ることができる。なぜなら、イエスはまことに神にしてまことに人であるお方として、祈っておられるから。だから、わたしはいま、こうして、祈ることができる、アーメン! そのことの「しるし」なのであります。

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